YOKOの歳時記

気候クライシスで全地球規模で滅亡の危機に瀕しているのに、いまだに武力で他国を蹂躙するもの、その尻馬に乗って平和な世界を、人類の理想を打ち壊そうとする輩。これらの愚行を絶対に許すな!日本国憲法・第9条を守れ!地球を絶滅の淵に追いやる核・原発反対! 大長今 日々の記録 語学学習 https://www.youtube.com/channel/UCL0fR1Bq0ZjZSEGaI2-hz7A/

三水(サムス)の冬 流刑地の十年 その2

三年後

「令監! 大長今様は、誠に素晴らしいお方です。昨年の春先、飢饉に備えて野にある草草の植え付けを建白なさいました。ナルコユリの根、ヒルガオの根、またニレの皮や、桃の木の樹皮など、その種類は多岐に渡っております。更にはまた、以前天然痘の感染予防に活躍したような、流行り唄をお作りになり宣伝なされました。小さな子どもから先に覚えるので、それを聞かされる両親が覚え皆の仕事場で歌い、今では民が口々に愛唱しております。何が食べられ、何が体に良い物かを知り、そのお陰で今年の飢饉を乗り切ることが出来たのです。」

「ほう、そうか。それはどんな唄だろう、聞いてみたいものだな。」

「令監!お戯れを…。私が唄など得意ではないことを…。令監…、分かりました。唄います!どうぞお笑いになってください。ウホン!

ノカンゾウ~、ヨメナ、イタドリ、クズ、コゴミ~、ウコギ、ガマズミ、コシアブラ~。春に種芋植えましょう~、むかご、里芋、ルコユリ根~、秋にはどっさり食べられる~。』

あははは、お粗末様です。なんでも大長今様のお義父様が節をお作りになったとか、普段でもこの調子でお酒を売っていらっしゃるのだそうです。」

「あはは、うまいではないか、ありがとう。成る程、トック熟手殿の良い調子だ。」

「令監!病気のことから食のことまで、大長今様はどれほどの学問を修められた方なのでしょう。なによりもその大長今様を、殿下の主治医に推挙された令監の先見の明を認めるべきでありましょう。いつまでもこんな三水に流刑のままなど、とても納得できるものではありません。」

「私は大長今の推挙と共に、経国大典の文言を冒し朝廷を混乱に陥れたことへの罪を問われたのだ。その昔世宗大王の御世、偉大なる科学者であるチャン・ヨンシルの登用に、ただ賛意を示しただけの芸文館の待教クオン・ボグンでさえ、やはり朝廷の秩序を乱した罪に問われ流罪となった。朝廷の秩序とはそういうものだ。そして身分を剥奪されているとはいえ、私はその一員、そして君も…。」

「しかし大長今様は殿下の主治医としての信頼も厚く、これほどの功績を挙げていらっしゃるというのに…。…令監!」

「えっ?…いや、済まぬ…。」

何時しか私の頬に伝わっていた涙を慌てて拭った。再会の喜びに溢れていた副官の目に傷ましい影が宿った。

「令監…。」

「済まぬ。違うのだ、私はうれしいのだ。大長今が期待に違わず功績を挙げてくれている…。いや、君だから正直に言おう。久し振りに…、三年振りに聞く消息がうれしい。生きていてくれていることが、うれしいのだ!」

「令監…。申し訳ありません…。あの時あのイポの港で、令監のおっしゃる通りにしていれば、今令監をこんなに苦しいお立場に追い込むことはなかったのでは…。」

「何を言う!それは違う! 私はそのことも君に感謝している。あの時引き止めてくれたからこそ、大長今は今その力を存分に振るうことが出来るのだ。王の健康を守ることで朝廷の安寧を保ち、また先ほどのような建議で実に多くの民の命を救っている。
私はその昔から、大長今の今日の使命を知っていた。その使命を知りつつも、男としての思いを捨て切れなかった。もしあの時逃げおおせていたら、当座は私も幸せだったに違いない。しかしいつの日にか、大長今にその使命を捨てさせた取り返しの付かない後悔に、非常なる苦しみを味わったに違いない。大長今は今日あるために生まれ、苦難の道を歩んで来たのだ。私の道もまたそれを知る為のものであった…。」

「しかしながら令監…。ああ令監…、これは気付かぬことをしました。大長今様の荷を解かれたいでしょう。お手紙もここにあります。」

「手紙?!君はその様な危険を犯してまで!」

「いいえ、こうして家の中に招き入れて頂き、お話し出来ることが分かっていたら、大長今様にもっとゆっくり手紙を認めるお時間を差し上げることが出来たものを…。それが大変に残念です。」

「君の威光で特別に取り計らってくれたものと思う。」

「いいえ、令監のご威光の賜物です。では、許された時間は僅かです。私は明朝出立の前にもう一度お立ち寄り致します。」

「まだ良いではないか。尽きせぬ話もある、宮中の様子も聞きたい。」

「令監!令監が発たれてからは、改革は一歩も進んでおりません!イ・グアンヒ左議政殿はいまだ隠然たる力をお持ちです。右議政大監も兵判大監ももう改革に対して一言の言葉も無く!…。いえ、申し訳ありません。勿論オ・ギョモが牛耳っていた頃に比べれば、穏やかなものですが…。」

「済まぬ!私は君たちの願いを踏みにじり…。」

「とんでもありません!令監!そんなことを言いたかったのではありません!令監!必ず漢陽に帰れる日があります!皆が令監のお戻りを待ち望んでおります。私も必ず帰ります。いつかまた令監の元で働くことが出来るように、功績を挙げてなるべく早くに漢陽に戻ります。令監が早いか、私が早いか競争することにしましょう!」

「ははは、君は左遷ではないのだよ。平安道女真族侵略への備えといったら、昔キム・チソン大監が功績を挙げられた国防の要だ。大きな期待がかかっている。奮闘してくれたまえ。」

「はい、ありがとうございます。令監も、必ずまたご一緒にお仕事が出来ますように。」

「そうしよう。」

「令監、早く荷をお開けください!畏れながら大長今様の余りにもお辛そうなお姿に心が痛みました。一刻も早く令監にこの荷をお届けしたく、山道を急ぎました。」


かつて私の副官を務め常に側にあり、秘密の捜査にも力を発揮してくれた男だ。絶対の信頼を置いていたこの男に、私は一度刃を向けたことがある。大長今の願いを聞き入れ、山越えの逃亡を図った時だ。イポの船着場にたどり着く寸前、その行く手を遮られた。
あの時の私は狂気の虜になっていたのかもしれない。どんなに苦しい道のりであっても、常に耐え忍び運命を切り開いてきた大長今が、初めて何もかも投げ捨てて私に縋って来た。「攫って逃げて…」と、あの不屈の大長今が…。私の心は直ぐに決まった。それはまた、長い間私の心に秘められた叶わぬ願いでもあったからだ。しかし、あの時の私は、王が大長今を主治医へと図った、その心の奥底に隠された本当の思いを既に察していたのかもしれない。私の心はただただ大長今と運命を共にする願いだけで一杯だった。…あの時も雪が深かった。
そんな私に蔑みの視線を浴びせてもよい男が、こうやって遠路はるばるその大長今の手紙を届けてくれる。その温情に応える術の無い私を、許して欲しい。

政事の罪を得て流刑になった者には、その及ぼす影響を恐れて、面会はおろか書籍も手紙のやり取りも禁止されている。ただ食べ物や衣服の差し入れは、貧しい支給品を補う為に厳重な検査を経て下げ渡しを受けることが出来る。副官が平安道に赴任するのに、わざわざ遠路の労をとって私を訪ねてくれたのは、昔の誼とはいえ余りにも済まないことであった。そしてその心遣いと共に大長今の荷と手紙が届けられたのだ。実に三年振りに触れる大長今の息吹。かつて「全てを忘れなさい」と突き放した私が、震える手でその手紙を開く。

『令監、息災でいらっしゃるでしょうか。三水は高山にて冬の厳しさは格別と聞き、心を痛めておりました。この度副官様が急な平安道へのご栄転の折、わざわざ令監をお訪ねになり、荷を届けてくださるとのこと。急ぎ着る物と、綿入れを作りました。針を持つのは女官以来、初めてでございます。うまく針を操れず何度も指を差してしまいました。お笑いください。どうぞ少しでも寒さが凌げましたらと願うばかりです。
 この手紙も副官様が直接お手渡しを試みてくださるとのこと、急ぎ認めております。もう時間がありません。殿下のご健康には及ばずながら全力を傾けております。令監、お食事も睡眠もきちんとお取りいただき、お体を大切になさってください。
もう時間がありません。ナウリ、一目だけでも、一目だけでもお会いしたいです。』

流麗な筆遣いで書かれた手紙が、最後は滲んだシミに汚れている。時間に急かれるまま、突然に乱れたチャングムの心を思い、涙を止めることが出来ない。
チャングムを王の主治医に推挙したことに後悔はない。実にチャングム以外にその任を任せることは出来なかった。しかし女人としてのチャングムの心を押し潰したのは、他ならぬこの私だ。最後まで私を追って来たチャングムに、その心を捨て去ることを強いた。自らはこれが私の愛し方だと信じそれを貫いた私が、チャングムにはその心を捨てるよう強いたのだ。悲鳴のような最後の言葉!

流刑の者は常に白い民服を着なければならない。チャングムが忙しい日々を送っているであろうに手ずからに縫ってくれた服か、縫い目も細かく揃っている。綿入れもとても暖かい。よく下げ渡しが許可になったものだ。頬に押し当て目を閉じると、ふとチャングムの残り香が、私の全身を包んだ。チャングムもこれを抱き締め泣いたに違いない。
その大きな目から大粒の涙が転がり落ちるのを幾度目にしたことか、どんなにこの胸に抱き締めてやりたいと手を差し伸ばしたい気持ちに駆られたことか。しかしそれが出来たのはほんの僅かな回数でしかなかった。いつもただ見守ることしか許されなかった。そして今はそれすらも出来ずに…。

チャングム…。チャングム…、済まなかった!一目だけでも会いたい!」


翌朝副官は、一睡も出来なかった私の腫れた目に傷ましい名残りの挨拶を与え、再び遠路赴任の地へ向かって行った。今はもう部下ではない男の忠義の心、友情を忘れまい。秋晴れの美しい朝だ。もうすぐまた厳しい冬が来る。 -END-


この二次小説たちはNHKBSで最初の「大長今」の放送が終わってから、1年間に渡って、8年も前に書いたものです。7年前に「愛の暮らし」を自動翻訳機にかけ拙いハングルでUPし、これらも続けるつもりでいましたが、今読み返してもハングルは一向に上達していないし、更にハングル翻訳作業に割く時間も全く取れないまま日々を過ごしています。おそらく夫の定年退職と同時に仕事を終える予定の数年先までは無理な状況なのだろうと思います。
取り敢えず、日本語のままUPしておきます。あの頃は熱狂的に心を傾け、様々な韓国ドラマを見てきた今尚私には「大長今」以上の作品は無く、自分で書いた二次小説に今でも涙が滲む笑止千万な私です。
「キム・サムスン」のハングル翻訳が終了したら、著作権問題を考慮し「大長今」以外の物は視聴制限に移しながら、「ベートーベン・ウイルス」のクラッシック編、「ボン・ダリ」のハングル字幕が出来たら良いなと切望しています。もし出来ることならその後、この二次小説のハングル翻訳を終え、自給自足の生活に汗を流しながら、趣味の時間もたっぷりと取って残りの人生を過ごすのが、私の贅沢な、ささやかな夢です。

20013年9月22日 YOKO